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この曲は元来、東京大学コール・アカデミーのOB合唱団であるアカデミカ・コールという男声合唱団から委嘱されて作曲した。当初の編成は弦楽5部、ピアノ、アルト・サキソフォン、コンガ。カトリック信者である僕は、自分の信仰心の発露を、ありきたりの方法で表現したくなくて、すぐ作曲に取りかからずにぐずぐずしていた。
ある時、青春時代によく聴いていたラテンロック・グループのサンタナの演奏会を聴きに日本武道館に行った僕は、大きなインスピレーションを得て、奇妙ではあるが、ラテン音楽のアイデアを盛り込んでミサ曲を作ってみようと思い立ったのだ。
また、終曲のDona nobis Pacem「我らに平和を」は、夏の白馬の貸別荘の深夜に、電子ピアノを持ち込んであてどなく弾いている最中に、突然頭に浮かんできたメロディーを急いで採譜したものだ。静かに静かに永遠に平和を希求するこの終わり方は、僕のつたない頭などから絞り出してきたものなどではない。最近よくアーカシック・レコードという言葉が聞かれるが、音楽でもそういうものがあると僕は信じる。宇宙の中に巨大な音楽の流れがあって、そこから流れ出たひとしずく。
元来は男声合唱のために生まれたこの曲が、混声合唱になってアッシジで演奏され、そしてさらに混声合唱+フル編成のオーケストラ・バージョンに生まれ変わって、今日皆様の前で披露される。まさに感無量である。
一方、地球上では戦乱が絶えることがない。僕は悲しい。本当に心が痛んでいる。ここで平和のためのミサ曲を演奏したところで即座に何かが変わるものではないかも知れないと思うと、大きな無力感が僕を包む。しかし、宇宙の音楽の流れから確実に僕に注がれたメッセージの力を僕は信じたいし、僕は、今日も心を込めて平和を願いながら演奏する。皆さんもどうか一緒に祈って下さい。 |